今回は、羽黒神社西遺跡の整理室からです。
縄文土器片に残っていた大変興味深い痕跡についてお伝えします。
縄文土器は、粘土の紐を積み上げていって胴部を作ります。
この粘土紐を積み上げた部分を「輪積み痕」と呼んでいます。
この輪積み痕付近は、とても壊れやすく、遺跡から発見された土器も、輪積み痕のところで割れたものがたいへん多く存在します。
今回、羽黒神社西遺跡で発見されたこの資料には、輪積み痕に粘土に紐を巻き上げるときの工夫の痕跡が見つかったのです。
粘土紐の上面にヘラなどで刻み目を入れて、接着の際に表面積を増やして接着を強化するという工夫は、よく知られています。
しかし、羽黒神社西遺跡のこの資料の場合は、少し違います。
この資料からは、粘土紐の上面をおそらく親指と人差し指でつまんでギョウザの皮をつつむような動作をしながら、土器の表面に親指の先を押し込んでヒダを作り出すという工夫が認められました。
ヒダの上には、さらに粘土紐を積み上げ、土器の高さを足していったようです。
そのヒダの上に巻き上げられた粘土紐の、ヒダとの接着面には、凸状になった指先の跡が残されていました。
このことから、ヒダを作り出した粘土紐がやや乾燥して少し硬くなった後に、やわらかい粘土紐を積み上げたと考えられます。
そのために、ヒダを作り出した特徴的な輪積み痕が残ったものと思われます。
ヒダを作った理由は、刻み目を入れる工夫と同じと考えられますが、製作実験をして確かめてみたいところです。
その一方で、この痕跡からは、土器を作った縄文人の指先を見ることができます。
わずかに残った爪先の痕跡からは、爪が長くなかったことがわかります。
いまとなっては見ることができないわたしたちの遠い祖先を、間近に感じるそんな感じがしますね。